「皮膚にできた脂肪腫が痛む…大丈夫だろうか」このような不安を抱える方はいませんでしょうか。
脂肪腫は基本的には痛みがない腫瘍ですが、発生した場所やタイプによっては痛みを伴います。痛みがあるからといって、必要以上に心配する必要はありませんが、悪化する可能性があるため早期の受診が必要です。
今回は、皮膚疾患に詳しい形成外科医が、痛みを伴う脂肪腫について詳しく解説します。皮膚にできた脂肪腫でお悩みの方は、ぜひ参考にしてみてください。
痛みが発生する脂肪腫は大丈夫?
痛みを伴う脂肪腫は、必ずしも心配する必要はありません。しかし、場合によっては医師の診察が必要です。
脂肪腫は通常、痛みを伴わない良性の腫瘍ですが、特定の部位やタイプによっては痛みを引き起こすことがあるからです。例えば、頸部(首)などに生じた脂肪腫が神経を圧迫すると、しびれや痛みを伴うことがあります。また、血液成分が豊富な血管脂肪腫は、通常の脂肪腫に比べてやや硬く、押すと痛みを伴う場合があります。
一方、脂肪腫と似た症状が現れる脂肪肉腫の可能性も考慮する必要があります。脂肪肉腫も通常は痛みを生じることはありませんが、頸部などに発生して神経を圧迫すると、しびれや痛みを伴うことがある悪性の腫瘍です。目視では脂肪腫と脂肪肉腫の区別は難しいため、まだ検査を受けていない場合は早めの受診が必要です。
痛みを感じる脂肪腫は必ずしも危険ではありませんが、脂肪肉腫など悪性の腫瘍である可能性を考えると、正確な診断を受けるために医師の診察が重要となります。
脂肪腫とは
脂肪腫は、皮膚の下に発生する良性の腫瘍で、決して珍しい疾患ではありません。
脂肪腫は、脂肪細胞からなる柔らかな腫瘍です。発症頻度が高く、「しこり」や「おでき」として知られています。柔らかい腫瘍の中では最もよく発生し、1000人に1人以上が発症すると考えられています。発生時期は幼少時とされていますが、ゆるやかに発育するため発見が遅れる場合が多い皮膚疾患です。特に40〜50歳代に多く見られ、女性や肥満者に多い傾向があります。
通常は、ひとつの脂肪腫が発生しますが、5〜10%の方には複数の脂肪腫ができることがあります。治療法は手術による摘出のみであり、自然消滅することはありません。万が一皮膚の下にできたしこりが消えた場合、それは脂肪腫ではなく別の皮膚疾患の可能性が高いでしょう。
脂肪腫は一般的な良性腫瘍であり、適切な治療を受ければ問題ありません。必要以上に不安になる必要はないと言えます。
脂肪腫の症状
脂肪腫は通常、1cmから10cm程度の大きさであり、触ると柔らかく、皮膚の中で動くことが特徴です。痛みを伴わないのが多いですが、まれに大きく成長して体の動きを妨げることがあります。
脂肪腫は皮下の浅いところにできる浅在性脂肪腫と、筋肉内など深い場所にできる深在性脂肪腫に分類されます。発生した部位や大きさによっては、体を動かしづらいと感じる場合もあるでしょう。
脂肪腫は痛みを伴わないのが一般的で、柔らかく皮膚の中で動く腫瘍です。
脂肪腫のできやすい部位
脂肪腫は、特定の部位に多くみられますが、体のどこにでもできるのが特徴的です。
たとえば、背部・肩・首です。次いで、上腕や臀部、大腿部など四肢の体幹に近い部分にも多く発生します。
まれに足や下腿、顔面や頭皮に脂肪腫が見られることがあります。これらの部位に脂肪腫が発生すると、見た目や触った感じがいつもと異なり、違和感を感じるでしょう。
背部や肩、首にしこりのようなものができた場合、脂肪腫の可能性が高いことを把握しておくのが大切です。
脂肪腫の様々な種類
脂肪腫にはさまざまな種類があり、それぞれ異なる特徴を持っています。
脂肪腫は全て良性で、基本的に痛みを伴わない場合が多いですが、種類によっては痛みが生じるものもあります。とくに血管脂肪腫と精髄脂肪腫は痛みを伴う可能性が、他の脂肪腫に比べて高いため注意が必要です。
脂肪腫の種類には、以下のものがあります。
病名 | 症状 | 痛みを伴う |
---|---|---|
線維脂肪腫 | 繊維成分が多く含まれる脂肪腫、最も一般的 | ✕ |
筋脂肪腫 | 筋肉成分が混在する脂肪腫 | ✕ |
血管脂肪腫 | 血管成分が多く含まれる脂肪腫 | ◯ |
びまん性脂肪腫 | 広範囲に広がる脂肪腫 | ✕ |
良性対側性脂肪腫 | 対側に発生する良性の脂肪腫 | ✕ |
脂肪腫様母斑 | 生まれつき存在する脂肪腫 | ✕ |
脊髄脂肪腫 | 脊髄に発生する脂肪腫 | ◯ |
ただし、どの脂肪腫においても、広範囲に広がったり、肥大化をすると痛みに繋がる可能性があるため注意してください。
脂肪腫と似ている疾患
皮膚にできる「しこり」には、脂肪腫に似ているものがあるため、正確な診断が重要です。
脂肪腫と間違いやすい疾患には、ガングリオン、粉瘤(アテローム)、滑液包炎(かつえきほうえん)、神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)があります。
- ガングリオン:関節や腱鞘から発生する嚢胞で、手首や足首に多くみられる
- 粉瘤(アテローム):皮脂腺の詰まりによってできる嚢胞で、触ると固く、炎症を起こすことがある
- 滑液包炎(かつえきほうえん):滑液包に炎症が起き、痛みや腫れを引き起こす、膝や肘などの関節に多くみられる
- 神経鞘腫:神経の周囲にできる良性腫瘍で、痛みやしびれを伴うことがある
脂肪腫は他の腫瘍と似ているため、正確な診断が重要です。
詳しくはこちらの記事を参照してください。
脂肪腫(リポーマ)と類似している疾患
診察と検査方法について
脂肪腫の正確な診断には、臨床症状と画像検査が必要です。
臨床症状だけでは脂肪腫と他の疾患を区別することが難しいため、画像検査が重要で、主にエコー検査、CT検査、MRI検査がおこなわれます。
当院では、主にエコー検査をおこなっていますが、大きい腫瘍に対してはCT検査やMRI検査を他院で行う必要があります。これら検査により、脂肪腫の正確な位置や大きさを把握し、適切な治療方針を立てることができるのです。
脂肪腫の手術
脂肪腫の治療は主に形成外科でおこなわれます。
脂肪腫は自然に治癒することはなく、液体でないため注射器で吸い出すこともできません。そのため、外科手術による摘出が唯一の治療法です。脂肪腫が再発しないように、手術では脂肪腫をかたまりごと完全に切除する必要があります。
当院では、麻酔の痛みを軽減するために極細の針を用いるなどの工夫をしています。また、形成外科医が皮膚切開のデザインをおこない、治療痕ができるだけ小さくするようこだわります。大きな脂肪腫の場合、まれに悪性のものがあるため、必要と判断された場合は切除後に病理検査をおこないます。
治療内容の詳細については以下の記事を参照してください。
脂肪腫(リポーマ)の治療法
日帰り手術も可能
手術と聞くと、入院が必要なのではと思われがちですが、脂肪腫の治療は日帰り手術でおこなえます。
ただし、全身麻酔が必要なケースや悪性の脂肪肉腫の疑いがある場合には、提携している大学病院などを紹介し、スムーズに治療を受けていただけるようにしています。
日帰り手術では、局所麻酔を用いて脂肪腫を摘出します。患者様は手術当日に帰宅することができ、翌日から通常の生活に戻ることが可能です。
手術内容については以下を参照してください。
脂肪腫(リポーマ)手術について
まとめ
脂肪腫は通常、痛みを伴わない良性の腫瘍です。
痛みがある場合でも良性であることが多く、人体に害を及ぼすことはありません。しかし、まれに悪性の脂肪肉腫の可能性もあるため、早めに医師の診察を受けることが重要です。
当院では、脂肪腫の診察と治療を専門的に行っており、必要に応じて日帰り手術も提供しています。詳しい治療内容については、別の記事で解説していますのでご確認ください。
院長紹介
日本形成外科学会 専門医 古林 玄
私は大阪医科大学を卒業後、大阪医科大学附属病院、市立奈良病院を経て東京へ行き、がん研有明病院、聖路加国際病院で形成外科の専門医として様々な手術の経験を積んできました。
がん研有明病院では再建症例を中心に形成外科分野の治療を行い、乳房再建および整形外科分野の再建を中心に手術を行ってきました。聖路加国際病院では整容的な面から顔面領域の形態手術、また、先天性疾患、手の外科、全身の再建手術に携わって参りました。
この経験を活かし、全身における腫瘍切除を形成外科的に適切な切除を目指し、傷跡の目立たない治療を提供できればと考えております。